コンピューターを通して依頼人の命じるままに現実の世界で動く″リアル・アバター″を職業としている主人公、石川朔也は、生前″自由死″を願っていた最愛の母を事故死で亡くす。それで、朔也は母を亡くしたことによって生じた孤独の空白を埋めるためにVF(ヴァーチャル・フィギュア)作成の専門会社に今は亡き母のVFを創ってもらうことにする。そのVFの<母>はAIなので、言語的なやりとりはぐんぐんと瞬く間に学習していく。しかし、VFの<母>には何かが欠けている。
生前、母が働いていた旅館で、母が親しくしていた三好という女性と朔也は会うことにする。三好は折から襲来した台風のため被災し住むところを失くしたため、朔也の家で共同生活を始めることになる。朔也は三好に段々と好意を寄せることになる。しかし、三好は過去にセックスワーカーとして働いていた頃に受けた暴力のため男性に触れられることに恐怖を覚えている。朔也と三好はプラトニックな関係を続けていくことになる。
″リアル・アバター″として引き受けたある仕事で、朔也は酷い客と出会うことになり、その無理難題な注文に最後は頭がおかしくなりかけ、たまたま入ったコンビニで日本語がたどたどしい外国人の店員に「国に帰れ!」と暴力を振るいかけている50がらみの男性客の外国人差別ぶりに怒りを覚え、その行く手を朔也は阻んだ。その光景をたまたま誰かがスマホかなんかで撮影していてその動画がまたたく間に世界中へ拡散した。朔也は差別主義者に立ち向かうヒーローとしてあっという間に有名人になった。その動画を見たアバターデザイナーとして有名で億万長者で、しかし、若くて障害者のイフィーは朔也を自らの″リアル・アバター″として雇うことにする。
朔也と三好とイフィーは、クリスマス・パーティーで時間を共にしたり、お笑いのライブを見に行ったりする。そのうち、イフィーは三好のことを好きになる。結局、三好はイフィーの愛を受け入れることになる。
物語の後半で、VFの<母>の代わりに三好が、朔也の手を握ってやった箇所には感動した。
結局、朔也はイフィーの″リアル・アバター″として働くことを放棄し、福祉の世界で働いていくことを決意したのであった。
現実と仮想空間、お金持ちと貧しい人たち、過去に傷を負った女性への恋心、母への愛、生きることと死ぬこと、色々考えさせられる内容の濃い小説だった。
皆さまにも読んでもらい一冊であります。
文春文庫 890円+税
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