著者は、人間の個性や能力は遺伝と環境から説明できると考えた。例えば、移民の子供たちがその国の言葉を話せるようになるのは、親との会話ではなく、(自分の面倒を見てくれるはず)年上の子供たちとのコミュニケーション(環境)によってのものである。例えば、音楽的才能や数学的才能、一般知能は遺伝の影響が大きいが、言語性知能、調和性、神経症傾向などは環境の影響が大きいということだ。
著者は、行動遺伝学の知見から人種間で知能の差があるという。知能が遺伝の強い影響を受けているという行動遺伝学の知見を認めたうえで、個人の人権を平等に扱い、効果的な再分配や社会福祉を設計したほうがずっと現実的だろう、と著者は述べている。
そして、著者は、顔の長さに対して幅の広いCEOがいる企業のほうが会社の収益が高いということを指摘している。顔の形は遺伝的なものであるから、著者は遺伝的なものが会社の収益を決定していると考えている。
著者は、男性と女性の脳組織に顕著な性差があることに注目している。胎児の段階から男性ではテストステロン、女性ではエストロゲンなどの性ホルモンが脳の形成に影響を及ぼし、その結果、男性は空間把握や数学的推論の能力が発達し、女性は言語の流暢性を高めたそうだ。著者は、イギリスの心理学者サイモン・バロン=コーエンの言葉を引用し、男性の脳の特徴は「システム化」で、女性の脳は「共感」に秀でていると指摘している。
著者は、心理学者のクリストファー・ライアンと精神科医のカシルダ・ジェタの考え方を適用し、霊長類のなかで、発情期にかかわらず交尾し、性行為をコミュニケーションの道具に使うのはヒトとボノボだけだという。そのボノボは、一夫一妻制のテナガザルや一夫多妻制のゴリラより進化的にはるかにヒトに近い。だとしたらなぜ、ヒトの性行動を考えるときにボノボを基準にしないのか。そして彼らは、こう宣言する。「ヒトの本性は一夫一妻制や一夫多妻制ではなく、(ボノボと同じ)乱婚である」
そして、著者は、中国の少数民族モソ族の13歳か14歳の女の子が自分の寝室で通りがかりの男たちと性交渉をする例を挙げて、ライアンとジェタの「乱婚」説を後押しする。
遺伝と環境の側面から人間の本性を探っていく本書は、人間という生き物の謎に迫っていきたいと考えている方には、是非とも読んでもらいたい一冊です。
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