もう少しましな部屋を探しに行った不動産会社で、銃を持った凶悪犯の京極瞬介のたまたまいた少女への発砲から身を守るために彼女の代わりに銃の弾丸を脳に受けた主人公の成瀬純一は、東和大学で堂元博士の指揮の下、脳移植を受ける。成瀬純一は、命は助かったものの、実は脳のドナーは凶悪犯の京極瞬介だった。エディプス・コンプレックスを持っていた京極瞬介の脳は攻撃的で衝動的であったため、おとなしかった性格の成瀬純一の性格は、段々凶悪なものに変わっていく。成瀬純一の自宅のそばで飼われていた吠え声がうるさい犬と性的魅力を感じていた堂元博士の助手の一人の橘直子を殺した成瀬純一は、自分の脳の狂気を止めようと、必死に自分と格闘する。以前から付き合っていた恋人の葉村恵の愛に一瞬、狂気から目覚めた成瀬純一は、自分を取り戻すための最後の手段として、堂元博士の下へ行き、脳の再手術を希望する。しかし、堂元博士にその希望を断られた成瀬純一は、最後の場面で自分の脳を銃で撃抜く。しかし、成瀬純一は、脳は無意識状態だけれど、一命を取り留める。最後に葉村恵の献身的な看護の下、成瀬純一は、その命の終わりまで、本人が希望した通り、安らかな無意識の世界で余命を全うしたのであった。
いくら凶悪犯の脳に支配されようとも、最後に愛が勝つというストーリー展開は涙を誘うものであった。
講談社文庫 770円+税
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