東野圭吾著 『クスノキの番人』を読む


 血縁者同士なら、その人の念を何でも伝えてくれる不思議なクスノキ。そのクスノキの番人を母の腹違いの姉の伯母、千舟から依頼される主人公の玲斗。中古の工作機械を扱うリサイクル業者の倉庫で働いていた玲斗。しかし、玲斗はその倉庫で工作機械の盗みを働き、警察に逮捕されてしまう。そこを、若くして死んだ母親の腹違いの姉の伯母の千舟から助け出してもらう。玲斗は牢獄行きの引き換えとして、東京の郊外にある伯母の出である柳澤家の管理する月郷神社にある血縁者同士ならどんな念でも伝えてくれる不思議なクスノキの番人するように命じられる。

このクスノキの祈念に訪れる個性的な人たち。まず、死んだ兄の受念をしようと満月の夜にたびたび訪れる佐治寿明。佐治寿明の兄はピアノの才能があったが、アルコールに溺れ、晩年を介護施設で過ごすことになる。その兄が最愛の母に伝えたかったピアノの曲をクスノキで受念して、実際にピアノの曲に仕立て上げ、認知症になった母に伝えようとする様子が描かれています。玲斗と佐治寿明の娘、優美との交流も面白く、実に躍動感のある物語に仕上がっています。

それから、柳澤家と古くから付き合いのある和菓子メーカーの御曹司、大場壮貴が登場します。壮貴は死んだ父親の念を受念しようと、たびたびクスノキを訪れます。しかし、大場壮貴は父親の実の息子ではなかったのです。その壮貴がどうやって父親の念を受念しようとするのか。物語の進行は新たな展開を見せてくれます。

それから、これが物語のメインである玲斗と伯母の千舟との交流の模様。伯母の千舟は、一流企業、柳澤グループの顧問をしています。しかし、若い頃に柳澤グループを一流企業に育て上げた伯母の千舟は柳澤グループを追い出されようとしています。その伯母と玲斗との交流。伯母の千舟がクスノキに込めた思いとは何なのか。

長大な物語ですが、人物描写が実に生き生きとしており、ページをめくる手が止まりません。壮大なヒューマン・ドラマを期待している方には是非とも読んでもらいたい一冊です。


実業之日本社  900円+税

KAZUMAの読書日記

冒険、スリラー、ジョギング、エッセーなどなど、気の向くまま、多ジャンルの読書を続けてきましたが、オススメできそうな本を備忘録風にご紹介いたします。

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