伊坂幸太郎著 『チルドレン』を読む 


 本作は著者によれば、「短編集のふりをした長編小説」である。冒頭の作品「バンク」では、大学生である鴨居とその友人、陣内、盲目の青年、永瀬が登場する。この3人は銀行で武装強盗と遭遇する。破天荒なキャラで知られる陣内は、強盗中にビートルズの曲を口ずさむ。その歌で銀行内のひりひりとした緊張感もほぐれたのである。盲目の青年、永瀬は銀行強盗の犯人の謎を解明する。

表題作「チルドレン」では、「バンク」から時が流れ、家裁調査官となった陣内と同じく家裁調査官の語り手の武藤が登場する。武藤はマンガ本を万引きして送致されてきた16歳の高校生、木原志郎君の事件を担当する。面接にはその父親も登場するのだが、その父親が実は誘拐事件の犯人だったという結末を迎える。小説の粗筋にどんでん返しが用意されたこの短編は、読む者をびっくりさせる。

「レトリーバー」では、永瀬の恋人、優子が語り手となって物語が進行していく。仙台駅裏のレンタルビデオ店の店員女性に愛の告白に行った陣内は見事にフラれてしまう。駅前の高架歩道のベンチに座っていた永瀬と優子はフラれた陣内を迎え入れる。その時、陣内はここら一帯の時間が止まったというのだった。なるほど、彼らの周りにいる人々は全然動きを見せない。実は時間が止まったというのは錯覚で、動きを見せていなかった人々は、身代金要求事件を捜査していた警察の関係者たちだったのである。駅前の動きを見せない人々の光景は、だまし絵の映画を見ているような感覚にさせられた。この短編もどんでん返しが仕掛けられている。

「チルドレンⅡ」では、家裁調査官の陣内が、結末でライブを披露し、そのバンドのボーカルが、試験観察を受けていた丸川明という少年の父親であったことが明らかになる。自分の父親を「駄目親父」と言っていた明少年が見た父親の恰好いい姿は、まさに陣内が言っていた「奇跡」と言ってもいいだろう。

最後の短編、「イン」では盲目の青年、永瀬が語り手となり、駅前のデパートでアルバイトをしている陣内に永瀬と優子が会いに行く。短編の結末で熊の着ぐるみを身に纏った陣内が、女子高生を連れた「駄目親父」を殴りに行くシーンはユーモアを感じさせる。

各短編に謎やどんでん返しが仕掛けられたこの小説は、文体はライトタッチながらも、小説全体の構成は重層感を帯びている。著者の力作と言えるだろう。

講談社文庫 660円+税

KAZUMAの読書日記

冒険、スリラー、ジョギング、エッセーなどなど、気の向くまま、多ジャンルの読書を続けてきましたが、オススメできそうな本を備忘録風にご紹介いたします。

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