椎名誠著『アイスランド 絶景と幸福の国へ』を読む


  椎名誠が著したアイスランド紀行。この旅で椎名誠はふたつのアイスランド人の家族を訪ねる。

ひとつめはパン屋さんのフリードリックさん。フリードリックさんの家は地熱の温水パイプを利用している。長いパイプラインを流れてきた湯(温泉)は家に入る段階で60度。キッチンや風呂、床暖房に使って家から出るときは20度ぐらいになっている。給湯の料金は六千クローナ(六千円程度)。 

 リビングに集まったフリードリック家の三兄妹は家から十六キロ離れた学校にスクールバスで通っているが学校の授業料やその他の主な経費、通学バスにかかるお金も必要ない。この国の学校は基本的にタダなのである。国家が負担しているのだ。医療関係も同じで、手術や入院まで含む医療費は全部国家の負担。

フリードリックさんはこう言う。「アイスランドには危ない動物もいないし、犯罪もない。街とは少し違うと思うけれど、毎日の生活に犯罪を含めて“危険“なものが入り込んでくることがめったにない。この国の警官は拳銃を持っていないんですよ。軍隊もないですしね。ここでいちばん危ないものは大自然です。火山の噴火と雪崩、あとは海の事故ぐらいでしょうか。」

  ふたつめの家族は北大西洋で漁師をしているベネディクトさんだ。ベネディクトさんの奥さんと娘さんはこう話す。「この町はなんでもレイキャビクより高いんですよ。レイキャビクはスペインより高い、だからヨーロッパで買い物をするときは物価の安い国をさがします.。」

三児の親の娘さんはこう言う。「この国には軍隊はない。学校や病院のシステムも出来ているし、子供を自由に安全に育てられる。子供が遅くまで帰らなくても心配する必要がない。ありがたいことだと思います」 

  そして、椎名誠は風景として重層的に全体が汚い「日本」という国に「違和感」を覚える。大量の人々が、どの国よりも1.5倍ぐらいの速さで動き回り、精密に計算された何かの異様な群衆スポーツのように、誰ともぶつからず、全体がなにか意図不明の悪夢に包まれたように濃密に動き回っている異次元的風景にも見える。

街はどこもてんでんばらばらにデカボリュウムで宣伝音楽や広告の叫び声をあげている。人間ではないようなマニュアル言葉しか喋れないレストランやコーヒーショップの若い従業員たち。そのまわりを動き回る人々の絶え間ない喧騒とやはり個々は基本的に無表情の連続。

住宅地では毎日複数の業者が「不用品回収」と言ってテレビや冷蔵庫、パソコン、バイクなどを金をとって回収している。そんなに毎日、そうした高級な電化製品を「いらなくなっている」国はおそらく世界で日本ぐらいしかないだろう。そんな拡声器騒音をまきちらしていくクルマが走り抜ける狭い道にまでコンビニが進出して二十四時間営業している。

明日、自分の飲む水が確保されているかどうかはっきりしておらず水ストレスで疲弊する人が世界中で四十億人になると言われる。しかもそれが加速度的に増えているというから二十一世紀の地球は「水のとりあい戦争」になると予測されてもいる。

  国民皆水道と呼ばれるくらいどの家にも水道のインフラが行き届き、家庭の蛇口からいつでも「飲める水」が出てくるというのに、多くの人は(子供まで)当然のように水を買っていく。

しかしその自動販売機から買う水も我々の家の水道水も、完全に放射能汚染から隔絶されている「きれいな水」かどうかは、国家の管理が正常かどうか実は信じられない現在、いちいち個々が調べてみないとわからない。 

  いろいろな国を旅してきた椎名誠が日本という国に感じた「違和感」にはしばし考えさせられた。面白い紀行本なのでぜひ皆さまにも読んでもらいたいと思います。  小学館 560円+税

2022年10月9日

KAZUMAの読書日記

冒険、スリラー、ジョギング、エッセーなどなど、気の向くまま、多ジャンルの読書を続けてきましたが、オススメできそうな本を備忘録風にご紹介いたします。

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