中国の成都から雲南省、ビルマ北部、インド北東部を通ってカルカッタまでの古代通商路を踏破したスリル満点の記録。
ビルマから中国の国境を越える時に中国の公安に捕まりそうになったり、カチンの密林の中でタケネズミを食べたり、ナガ軍の総司令部で旅に同行した大尉が14年間生き別れていた息子と奇跡の再会を果たしたり、ようやくたどり着いたカルカッタから日本へ強制送還されたりと色々なドラマが楽しめます。
最後に著者が苦労して登った推定標高二千五百メートルのプンラブムという山の山頂にたどり着いた時の描写を紹介しておきます。
「一時間もしなうちに、驚くべき風景に出くわした。突然、ジャングルが途切れ、薄い草地になったのだ。あまりにくっきりと境目ができているので、『ここ、畑?』と間抜けな質問をしてしまったくらいだ。尾根のすぐ下を歩いていくと、草地は岩場へと変わった。そして、ついに頂上へ出た。霧が風にするするとほどかれ、周囲に大パノラマが開けた。『わーっ!』と歓声があがった。三百六十度全方向に、濃い緑に覆われた山が広がっている。ジャングルの大海にポツンと浮かんでいるようで目眩を起こしそうだ。山登りをやっていた頃のカタルシスを思い出した。今回のカチンとナガの旅では常にジャングルに埋もれ、視界も閉ざされていた。ましてや山の上に出たことなど一度もない。こんな爽快感、達成感は初めてのことだった。ここが推定標高二千五百メートルのプンラブムという山の頂らしい。大尉とゾウ・リップも『こんな景色は見たことがない』と興奮し、大騒ぎの写真撮影大会がはじまった。それをナガ軍の無口なオウン・テ中尉が微笑して見ている。いや、まったく、中国を離れて、初めて大はしゃぎをしたものだ。はしゃいでいるうちに気づいたが、岩肌がむき出しになっているのは、この山だけである。もっと高い山もあるが、しっかりと山頂まで森に覆われている。不思議だ。ナガの人たちがここを聖域とあがめるのもよくわかる。」
迫力満点の旅行記です。
講談社文庫 960円+税
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