榎本博明著 『母ロス 悲しみからどう立ち直るか』を読む

 母ロスとは文字通り母親を亡くすことだが、単に母親の死という事実を指すのではなく、それによって心の中に生じる変化、たとえば苦悩や悲しみを意味するものとして使われている。母ロスに陥らないためにはどうすれば良いか?特に母親を亡くすことによって、特にアルコールへの耽溺、性的な快楽、趣味・道楽への熱中、仕事への過度の没頭など現実逃避するような病的な悲しみ方をする人たちはどうすれば良いか?それには、著者は精神分析学の創始者フロイトが唱えた「喪(悲哀)の仕事」を行えば良いと述べている。「喪(悲哀)の仕事」とは、悲哀の心理過程を通して、その対象とのかかわりを整理し、心の中でその対象像を安らかで穏やかな存在として受け入れることができるようになっていく、一連の心の中での営みである。

また、著者は、日本と欧米の死生観の文化差に注目し、日本の未亡人は、いつまでも再婚しない人が多く、死んだ夫との一体感を依然として保ち続け、喪(悲哀)の仕事はいつまでも尾を引くのに対し、アメリカの未亡人は、激しく取り乱し、悲嘆の極みに陥ったにもかかわらず、1年も経つと、まるで夫を忘れてしまったかのように、新しい対象を見出し、機会があれば再婚してしまう、と言っている。著者は、「日本の文化では、故人は、この世にいなくても、心の中に生きている。それは現実否認というこではなく、別次元で故人とつながり続けているのであり、けっして不健康なことではない。」と述べている。

著者は、自分のことを「I」で押し通すアメリカ文化に対して、相手との関係性に応じて、自分のことを「私」と言ったり、「僕」と言ったり、「オレ」と言ったり、「お父さん」と言ったり、「おじさん」と言ったりする日本の文化を「間柄の文化」と定義してしている。

著者は、欧米でも対象喪失によるダメージに苦しめられる人は少なくないが、相互依存しながら間柄を生きているという点で、私たち日本人にとって、対象喪失による心のダメージはことのほか大きいと言わざるを得ない、と言っている。

母ロスに陥らないためには、健全な喪(悲哀)の仕事を行っていくことが大切である、本書を読んでそのような感想を得た次第であります。



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KAZUMAの読書日記

冒険、スリラー、ジョギング、エッセーなどなど、気の向くまま、多ジャンルの読書を続けてきましたが、オススメできそうな本を備忘録風にご紹介いたします。

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