この小説の中では、主人公の僕が、祖母から伝え聞いた四国の森の村の、神話と伝承のはらんでいる独自の宇宙観・死生観が描き出されている。伝説の存在のようなトリックスター(手ぎわのいいやつ)としての「壊す人」やメイトリアーク(女家長)としての「オシコメ」や「オーバー」といった登場人物が物語を盛り上げてくれる。小説の中では四国の森の中の盆地の自然が生き生きと描かれている。小説の後半で村の人たちと大日本帝国軍が戦う場面は手に汗を握る。主人公の僕の息子である障害を持った光さんと僕の母との交流には愛を感じる。この小説の中に出てくる音楽「森のフシギ」とはいわば死と生が未分節な状態としてある「懐かしい」場としての母胎である。この小説を読んでいると暖かで安全な「懐かしい」場所にいるような気分にさせられる。
岩波文庫 950円+税
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