冒険小説家、椎名誠による旅のエッセー。
旅のエッセーらしく通常第一章、第二章とするところを第一宿、第ニ宿という章立てにしている。
第一宿では、ビール党の著者がどんなビールが美味いかを論じている。世界のビールについても美味い、不味いが紹介されている。
第ニ宿では、厳冬期のロシアを旅した著者が、ロシアのヒコーキの「ため込み式便所」について興味深い紹介をしている。極寒の上空でヒコーキにため込まれている小便、大便がなぜ凍っていないのか、その理由を紹介している。
続いて暑いインドに話題が変わる。本来なら動物持ち込み禁止のはずのヒコーキに、無断でニワトリを持ち込んだおばさんが引き起こした、ハチャメチャな騒動が描かれている。
第三宿では、アリューシャン列島の西側にある、「アムトチカ」という島での探検の様子が描かれている。文明とは切り離された島の中で、著者はサバイバル探検に挑んだ。
第四宿では著者がサラリーマンをしていた頃の、伊香保温泉での宴会の様子が描かれている。専務が踊る「ヨカチン踊り」の箇所は、少々下ネタがらみであるが、面白い。
第五宿では気の合う仲間と「年末粗大ゴミ合宿」と呼ばれる合宿を行った際の、福島の民宿における宴会の様子が紹介されている。「年末粗大ゴミ合宿」とは、家庭で粗大ゴミ扱いされている中年男性どもの、いささか自虐的でギャグっぽい名称である。
第六宿では中国、ロシア、ミャンマーでの、ミグレーションの検査官の対応について紹介されている。それぞれお国柄によって、税関通過までの検査官の対応ややりとりに違いがあり、その違いがおもしろおかしく紹介されている。
第七宿では、インドのガンガーでの水葬の様子やチベットでの鳥葬が紹介されており、我々日本人には非常に珍しい風習なので、興味をそそられる。
第八宿ではアジアを流れる大河、メコン川を下りトンレサップという湖で見た、水上家屋の様子が描かれている。ある意味当然とはいえ、排便、排尿もすべて水に流される。
第九宿では1960年代の半ばあたり、著者が冬から春にかけて熱中していた北アルプスでの、雪山登山の様子が描かれている。最も驚いたのは、雪中の山小屋での便所の様子である。つもりつもった排便の山が凍り、しゃがんだ拍子にその氷の先端が肛門に突き刺さりそうな恐怖にさらされたという。これは、今から60年ほど前の、極寒時の山小屋の様子であるが...。
第十宿では、モンゴルの草原での取材の様子が描かれている。取材もヤマ場を迎え、自由時間ができたので著者は馬に乗って一人での馬旅に出る。しかし、ひょんなことから落馬してしまい、馬に逃げられ歩いて自分のゲルに戻ることになる。何とも間抜けなモンゴル奥地での冒険だった。
第十一宿では、日本の三大国民食「ラーメン」「カレーライス」「牛丼」について、著者の見解が紹介されている。
ラーメンは中国にルーツがあるが、食べ物としてのラーメンは、日本と中国では別物のごとく違っている。その違いを一言で言えば、日本のラーメンのほうが格段に美味いという。
カレーライスは、インド⇒イギリス⇒日本の海軍⇒日本風カレーライスの誕生
という経緯を辿って日本の国民食になったが、カレーライスも原産地インドのカレーとは全く違うとのこと。
牛丼は、昔の日本ではご馳走の代表であったスキヤキから派生した、日本原産の国民食だとのこと。
第十二宿では、ロマンなイメージがある南の島の厳しい現実や、北海道の無人島でのキャンプの様子が紹介されている。
緑多い日本列島では非常に珍しい光景であるが、南西諸島の久米島近辺の島には草木一本も生えていないという。
第十三宿では、著者の子供の頃の自転車の乗り方や、カヌーでの川下りの様子や馬の乗り方について、あるいは犬ぞりに乗った時の体験談が語られている。一見、関係なさそうな話題であるが、「乗る」を共通項にしてまとめられている。
第十四宿では、著者が秋口から巻き込まれた不運についてのエピソードが紹介されている。痛風に悩まされていた上に、たまたま乗ったタクシーで交通事故に遭ったという不運であるが、幸い重症にはならずに済んだという。
そして、最後の第十五宿は、旅先で読む本の素晴らしさについての紹介である。読む本がなくなった旅先で、たまたま手に入れた「サイバネティクスの基礎概念」という、普段なら絶対読むことのない科学技術の本を読んで、大いに刺激を受けたという体験談である。
いろいろなところに旅に出た著者ならではの、多方面にわたる話題満載のエッセーである。皆さまにも一読をオススメします。
角川文庫 720円+税
bloggerにて2022年9月19日公開
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