「ワニ眼の画伯」沢野ひとしが、日本の北から南まで登った50山を紹介している。
知床の最高峰・羅臼岳(1660m)に登った時は、秘境の知床の沢を遡行した。
新潟県と山形県にまたがる朝日連峰の主峰・大朝日岳(1870m)への山行では、著者は「山に入ると、都会にいる時はおしゃべりの人が沈黙し、いつもは無口の者が饒舌に話しだす。空の青さが人の性格を変えていくのだ。」と含蓄のある感想を述べている。
群馬県にある白毛門(1720m)に登った際には、「電車や車、時計、ラジオ、テレビ、洗濯機、携帯電話と、私たちにとって便利なものは、すべて音の出るものばかりだ。都会の騒音と喧噪に包まれた暮らしに慣らされた者にとって、この雪山のひっそり感と静けさは、もう一度人間の原始の姿を諭してくれる場でもある」と自然の静寂について語っている。
長野、富山に新潟を加えた三県にまたがっている白馬岳(2932m)に登った時は、「バス停を下りて歩きだすと林の匂い、水の匂い、針葉樹の松の匂い、やがて森林地帯を越えると、硫黄や鉱物、さらに三〇〇〇mの頂上に立つと大袈裟だが宇宙の匂いさえする。」というふうに山の荘厳さを語っている。
北アルプスの焼岳(2455m)の山行では、「人は歩きながらなにかを思考している。山に向かいながらいつの間にか自分自身を見つめている。頂上に登ることによって、自分への問いかけは突風のように消える。苦労して頂上に到達した時、安らぎを実感し、その達成感に満足する。」と山への思いを込めた感想を述べている。
鹿児島と宮崎の県境に広がる、霧島火山群の東端に位置する高千穂峰(1574m)にへの山行では、東京から高千穂にある温泉付きの民家に引っ越した画家の友人のことを、「久し振りに会う彼の表情は穏やかで、都会で時折見せるニヒルな横顔はなかった。自然の中で暮らしているうちに、人は次第に浄化されていくのだ。」というふうに自然の効用を述べている。
屋久島の宮之浦岳(1936m)に登った際には、宮之浦岳の頂上に到着した時の感激がこんなふうに述べられている。「大きな丸い岩の間を何度か抜けて行くとついに宮之浦岳の頂上に到着した。こんな風景は今までに見たこともない。なんという壮大な風景なのだろう。真っ青な海の彼方に薩摩半島、種子島、口永良部島、硫黄島、遠く竹島まで見える。」などなど。読んでいるとあなたも山に登りたくなる本です。是非、ご一読をオススメします。 角川文庫 700円+税
bloggerにて2022年7月31日公開
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